突然トビラが開き二人の男が銃を乱射し、一人の男の死を確認して去っていった。 だが、撃たれたはずの男は何事もなかったかのように向く利と起きあがり、目を開いた。 ------------------ 魔術師と呼ばれた男 ------------------ 海辺はのんきな朝の陽光にあふれていた。ルパンは海パン一丁になって、 ゴムボートの上で釣りがてらの日光浴の真っ最中。近くの芝の腕では次元が射的。 さすがの腕前で、板の中心を見事に打ち抜いている。 その時ルパンのボートにタコがはい上がってきた。今度は後ろ向きで手鏡を見ながら 板に大穴を開けてみせる次元。その穴からいつのまにやら正装になったルパンが顔を出した。 「傷つけて傷つけて、冷たくしてね・・・」 不二子の歌声だ。 「ヤな唄だぜ。」次元はぼやいてみせる。 「アレが?だから音痴は困るって言うんだよ。」 「な、気をつけろルパン。あの女にはいつもひどい目にあっているんだ。」 「シーッ!」ルパンは意に介せずといった顔で、不二子の唄に聞き耳を立てている。 かまわずに次元はしゃべり続けた。 「だいたい、昨日の現れ方が良くなかった。あの女、きっと何か俺達に隠している ことがあるぜ。」 ルパンは森の業火の中から現れた不二子を助けたのだった。 「気にするない、女のことは俺に任せときゃいいんだ。」 ルパンは自信たっぷりと胸をたたいて見せた。 不二子がシャワーを浴びる中、ルパンは上機嫌で料理を作っていた。 「オイ、朝メシは女が作るもんだぜ。」 そういいながら、次元はカゴからタコをとりだして、ルパンに聞いた。 「これは、どう料理すりゃいいかな?」 「ん?ヒィ〜、助けて!」 タコを見て、ルパンは顔を蒼白にして逃げていった。 「あ、そうか。あいつはタコを見るとジンマシンが出るんだった。」 「次元、シャンペン冷えてるだろうな?」 「ああ。」 ルパンが鼻歌まじりにネクタイを直して、不二子の部屋のドアをノックした、その直後! 「ウァー!」次元の悲鳴が響いた。 ルパンが駆け寄ると、次元が倒れていた。 「次元!?」 「大丈夫だ。」次元は苦悶の表情で答えた。 入り口に次元をおそった白いスーツの陰気な男が立っていた。 「客を呼んだ覚えはないぜ。」ルパンは男に銃を向けて、鋭い声で言った。 「連れていく。」 「何のこった?」 「女だ。」 男はそう言って背を向け、二回の不二子の部屋を向かおうと階段に足をかけた。 「待て、まず名前を言え!」 ルパンの呼びかけに男が振り返り、「白乾児」と名乗った。 「ほ〜、酔っぱらっちまいそうな名だな。」 ルパンは皮肉たっぷりに答えて、さらに問いつめた。 「俺は誰だか知ってんのか?」 「ルパン三世。」そう言い捨てて、白乾児と名乗った男は階段を昇っていった。 これにはさすがにルパンも頭に来て、怒鳴った。 「抜けー、酔っぱらい!」 白乾児は振り返って、人差し指をルパンに向けた。 「危ない!」 次元の声と同時に、白乾児の指先から炎がルパンめがけて噴き出していた。 「ウワ〜、あちち、あちち、クソー!」 転げ回って炎を消したルパンは、仕返しとばかりに白乾児の肩めがけて発砲した。 だがどうしたことか、白乾児は振り向きもせずに不二子の部屋に向かって行くではないか。 「防弾チョッキか。しょうがねぇ、やるぜ!」 次元は頭部めがけてマグナムを放った。だが、弾丸は何かに弾き返されるかのように、 白乾児にはあたらなかった。 「信じられん、俺のコンバット・マグナムも効かねえや。」 白乾児が不二子の部屋のドアをゆっくり開けて入ろうとすると、 不二子は部屋の中から白乾児に向かってマシンガンを乱射した。 だが、その抵抗もむなしく、不二子は平手でぶたれて白乾児の手に落ちてしまった。 「これが見えるか!!ストナー63重機関銃だ!」 ルパンは不二子を抱えて階段を下りようとする白乾児に怒鳴った。 「くそったれめ!」 照準を定めながらも、次元は顔色一つ変えない白乾児にいらだちを覚えていた。 さらにルパンが言った。「女をおろして、出ていけ!」 だが白乾児はルパンに向けて人差し指から炎を噴出し、ルパン達はあわててテーブルに身を隠した。 白乾児は何事もなかったかのように、平然と不二子を連れて出ていった。 準備した食事どころか、あちこちを焼かれてしまった部屋に男二人がぽつんと座っていた。 「あんなヤロー、初めてだぜ。」 「腹減った。」 次元はもっぱら食事の方に興味があるようである。 ルパンが聞いた。 「冷蔵庫になんか無いのか?」 「あるにはあるんだが・・・。」 「俺いらない・・・。」 あくまでタコを拒否するルパンだった。 ベンツSSKに乗り込んで、次元がマグナムに弾を込めながら聞いた。 「どこへ?」 「探すんだよ。」 「何の手がかりもねえぜ。」 「だから探すんだよ。」 車を走らせて、思い出したようにルパンが呟いた。 「エンマの滝の近くだったなー。」 「何が?」 「夕べ、俺の恋人をひろったところだよ。」 「ハハッ、恋人ね・・・、あれが?」 「フフーン、女っていいもんだぜ。」 その頃エンマの滝のてっぺんに突き出るように建つ山小屋の中で、白乾児は不二子に問いつめていた。 「出してもらおうか。」 不二子の記憶がだぶった。 「出してもらおうか、フィルムを。アレは俺の御守りなんだ。お前が持っていても役には立たない。」 「ねぇ、白乾児。あたしがフィルムを狙っていたことを知って私を愛したのよ。」 「渡すんだ。」 白乾児は指を不二子に向ける。 「やれないはずよ。そうでしょ。」 その時、指から炎が噴き出していた。 「今度は逃げたりしないわ。だから・・・、こっちにいらっしゃい。」 不二子はベッドの上で誘惑する。 「愛してるのよね・・・坊や。」 白乾児が表情を変えずに服を脱ぎ始めて上半身をさらしたとき、 不二子がガーターに隠し持っていたブローニングを手にしていった。 「どう?愛してるならそう言って。考え直してあげてもいいわ。裸じゃ防弾の効き目もないわよね。」 「どうかな?」 白乾児が答えるやいなや、ブローニングが火を噴いた。 だが白乾児には全く通用せず、次の瞬間には不二子の衣服は破かれ、滝下に吊り下げられて拷問を受けていた。 次元があたりを見回しながら言った。 「間違いねぇ、このあたりだぜ。」 「なんか見えねえか。彼女の服とかタイヤの跡とか?」 「いや、やけぼっくりしか見えねえよ。」 しばらくして次元がふとつぶやいた。 「手がかりなしだな〜。」 その時、急にルパンが鼻を利かせ始めた。 「どうした?」 「においだ。」 「においってなんだ?」 「焼けただれた俺達の部屋と同じ匂いがする。」 白乾児は拷問を続けて、探し求めるマイクロ・フィルムの所在を不二子に白状させたが、 その頃次元が一足早くベンツSSKのダッシュボードから見つけだしていた。 「おや、なんだこりゃ?こりゃ、あの女の忘れ物らしいぞ。」 早速アジトに帰って、ルパンと次元はフィルムを映写してみた。 「これになんかいわくがあるってわけか?」 「全部で三枚あるぜ。何かの暗号だな。」 次元の言うとおり、映し出されたのは意味不明の図だった。 「あー、何のことだ。さっぱりわからんぜ。」 突然白乾児が部屋に入ってきた。 「その通り、お前たちに分かるはずがない。」 「不二子はどこだ?」 少し間をおいて白乾児が答えた。 「エンマの滝・・・。」 「ソレッ!」 ルパンは、白乾児にはもう用が無いとばかりに、ストナー63銃機関銃を見まった。 白乾児は弾丸を受けながらジリジリと下がっていく。 「次元!」 「よーし、食い物の恨みはおっかねえぞ。」 次元の投げた手榴弾で、ついに白乾児が倒れた。 「やったー!」 「ホッホッホー!」 だが、二人の喜びもつかの間。白乾児は再び立ち上がった。 「だ、駄目だ。」 二人は炎から逃げまどい、窓際に追いつめられてしまった。 「今度は加熱を上げることにするぜ。ルパン、今度は死ぬんだ。」 ルパンはマイクロ・フィルムを手に、言い返した。 「やってみろ。お前の探しているこいつまで一緒に灰になっちまうんだ。それでもいいのか?」 「ああ、いいとも。その方が俺にとっては都合がいいんだ。」 あわてた二人は窓を破って外に止めてあったSSKに乗り込んで距離を稼ぎ、 とっておきの武器を取りだした。 「レッドアイ・ガンランチャー。50ミリ鉄板でも撃ち抜くぜ!」 轟音と共に白乾児は吹き飛んだ。だが、何事もなかったかのように再びゆっくりと立ち上がった。 「どうかしてるぜ、あん畜生!」 「これじゃ、手も足もでねえ。」 「逃げるか?」 次元の一言に、ルパンはいきり立った。 「なにぃ、この俺が!?・・・逃げよう・・・。」 車をとばして、二人はとある木陰にたどり着いた。 「どこをどう逃げてきたのやら・・・。」 「ああ、助かったのが不思議なくらいだ。」 「ンアー!!」 次元の悲鳴を聞いてルパンも振り返った。 「どうし・・・アー!!」 なんと白乾児がそこにいたのである。しかも宙に浮いて・・・。 「ルパン・・・。」そう言って白乾児は指を向けた。 ルパンはあわててSSKを走らせたが、数秒もせずにSSKは大爆発を起こしていた。 かろうじて残ったSSKの残骸をガタガタ走らせながらルパンが言った。 「腹減った。」 「お前には悪いが、まだ残ってんだ。」 「あれか?あれはもういいよ。」 白乾児が小屋に戻ると、そこには解かれたロープと置き手紙だけが残っていた。 ・・・さようなら、馬鹿な魔法使いの坊や・・・。 白乾児は無表情に手紙を破り、滝壺に投げ捨てた。 ルパンのアジトには、壁や天井のあちこちに焼けこげた跡が残っていた。 「おい、次元。起きろー。」 ルパンはソファーに横になっている次元に言った。 「ん〜、まだ早い・・・。」 ねぼけまなこの次元に、ルパンが炎を放った。 「うわっちちち!!」 「種の一つは分かった。簡単な仕掛けさ。」 ルパンが指に仕込んだモノを見せた。 「なるほど、火炎放射器とはね・・・。」 「ここに帰ってきて、すぐに分かったよ。この臭いは液体燃料独特のモノなんだ。」 「へ〜、じゃあ奴が浮くってのはどういうわけなんだ?」 「それもわかった。外へ出てみな。」 次元が言われたとおりにアジトの外に出ると、上からルパンの声がした。 「おい、次元!」 「ん、どこだい?・・・アッ!」 次元が上を見ると、ルパンが宙に浮いていたのだった。 「なるほど、硬質ガラスか・・・。種が分かればどうってことないな。」 次元が納得した顔で、ガラスの上に乗った。 「手品の種を置き忘れるようじゃ、魔術師白乾児の名が泣くぜ。」 「ちげーねー。ハッハッハッ!」 「ルパン?」次元が問いかけるようにルパンに言った。 「勝てないよ・・・。」 「やっぱりな・・・。」 「ハジキもバズーカーも効かないんじゃ話にならない。まず、この謎を解くことだ。」 ルパンはマイクロフィルムを見つめた。 「見当がつかねぇな・・・。」 突然、外から銃弾が飛び込んできた。 「ルパン、無駄よ。その謎は簡単には解けないわ。」 「不二子、無事だったのぉ?」ルパンは窓から身を乗り出して、銃を撃った不二子に言った。 「ルパン、お願い。白乾児と戦うのはやめて、フィルムをあたしに返して。 あなたを死なせたくないのよ。信じて。」 「不二子!?」 「ルパン、だまされるな!」 さらに身を乗り出すルパンに次元が言った。 「ぬふふふふ・・・。」 だがルパンは次元の忠告を無視して、硬質ガラスをつたって不二子の元へ行こうとした・・・、 その瞬間「アラーッ!!」ルパンは二階の窓から転落していた。 「馬鹿ねぇ、硬質ガラスは私がどけといたの。また来るわね、おバカさん。」 そう言い捨てて不二子のバイクは去った。 転落して朦朧とする意識の中で、ルパンは笑い始めた。 「ルパン、気は確かか?」 次元の声にも反応せずに笑い続けるルパン。ついに最後の謎が解けたのだ・・・。 次の日の早朝、不二子は再びルパンのアジトを訪ねた。 ルパンはボロボロのソファーで寝ている次元をおいて、不二子を出迎えた。 「考え直してくれた?謎は解けたんでしょ。だったら私にフィルムをちょうだい。」 不二子がこわばった口調でしゃべり、ルパンはポケットからフィルムを出して答えた。 「このフィルムは奴との決着が付くまでは、奴のモノだ。君にやるわけにはいかない・・・。」 「やっぱりいくのね。」 「あぁ。」 「ルパン・・・、気をつけて・・・。」 少し寂しそうな顔をしながら、不二子はバイクにまたがり去っていった。 その頃白乾児は自分のアジトで眠っていたが、外から聞こえる不二子の声でハと飛び起きた。 「ボウヤ・・・、起きてらっしゃい。いいこと教えてあげる。ルパンが今、 そっちへ向かうところなの。あなたと決闘でもしにいくつもりなんじゃなくって?」 怪訝に思った白乾児が外に出てみると、玄関でテープレコーダーが回っていた。 どうやら、不二子の仕掛けたモノらしい。テープはさらに続いた。 「あなたが何を言いたいのか、よくわかるわ。さあ、どうしてかしら? どうしてあたしがあなたにこんな事を教える気になったのかしら。 うふふ、それはね、私が二人の男を同時に愛してしまったからなのよ、白乾児・・・。 ルパンに勝てる自信があって・・・?」 白乾児はテープを止めてつぶやいた。 「俺は勝つ。世界一強い男は一人だけだ。」 ルパンは単身で車に乗り、エンマの滝へ向かっていた。だが、ルパンの来訪を既に知っている白乾児は 先手を打ってセスナを使ってるパンの車に飛び乗って、車を運転するルパンに銃を突きつけた。 「さすが暗黒街の魔術師。」 「フィルムはどこだ?」 「俺のポッケ・・・。」 そう言ってるパンはポケットに手をやったが、白乾児は制止した。 「おっと、そのままでいい。ついでに始末させてもらうさ。」 その直後、銃弾がルパンの後頭部を撃ち抜き、ハンドルを失った車は ルパンを乗せたまま海へと飛び込んでいた。 ルパンを始末した白乾児は、小屋に戻ってトビラを開けた。 「ルパン!?」 「へへ〜、ルパン大魔術。」 死んだはずの男が小屋のイスに座って笑いかけるのを見て、 白乾児は反射的にルパンを攻撃しようとした。 「待て、俺の話を聞いてからでも遅くはないだろ?」 そう言ってルパンは映写機のスイッチを入れた。 「例のフィルムさ。ほうら、これだけじゃ何のことかわからない。 そこでもう一つ・・・、そしてもう一枚・・・。すごい発明だ、白乾児!」 三枚のフィルムを重ねると、スクリーンには化学式が浮かび上がっていた。 「これが何か分かったのか?」 「ああ、ある薬品の化学式だ。超硬質の皮膜製法・・・、つまり皮の作り方だな。 この皮になる薬を物の表面に塗ると、すばらしい耐熱・防弾効果を得ることが出来る・・・ というわけさ、白乾児。」 全てを見破られた白乾児は狼狽して、ルパンに火炎放射を仕掛けた。 「アッ!」ちょうどその頃陰から様子をうかがっていた不二子も、火だるまのルパンを見て声を上げた。 「遅かったな、峰不二子君。フィルムは燃えちまったぜ。」 「ルパン!?」 「白乾児、俺も使ってるんだよ、このすばらしい塗り薬を。もっとも、さっきは近距離だったから、 すいぶん応えたがね。ところでこの薬には弱点が一つある。あまり長時間は持たないってことさ。 白乾児、お前の方はそろそろ効き目が無くなる頃じゃないかな?」 白乾児が逃げようと戸口に駆けつけると、次元が宙に浮いて見下ろしていた。 「お出かけかね?ぼうや。」 白乾児は指先から炎を放つ。 「ハッハッハッハッハッ・・・。」 超硬質液体だけでなく、空中浮揚の秘密まで知られたことをさとって、白乾児は後ずさりした。 「こっちを向け!世界一強い男!」 ルパンの呼びかけに、無駄と知りながらも白乾児は火炎放射で応える。 だが、当然ながらルパンには通用しない。 「遠慮はしないぜ。」 ルパンはそう言って指に仕込んだガス管から炎を放った。 炎に包まれた白乾児は、うめき声を上げながら火を消そうと 滝壺にロープを垂らして降りていこうとする。 だが自然の摂理、炎でロープは切れ、白乾児は滝壺へと消えていった。 アジトの横で、次元は射的の練習をしていた。 「覚えてるの、あの化学式?」 アジトのソファーの上で、不二子はルパンに寄り添いながら聞いた。 「CO2の・・・え〜っと・・・。」 「全然覚えてないの?でも、コピーくらいはしてあるんでしょ?教えてよ、お願い。」 「してないよ・・・、いいじゃないか、そんなこと。」 そう言ってルパンは不二子を押し倒した。 次元が射的で板に大穴を開けて見せた横を、不二子がおこりながら通り過ぎて、車で去っていった。 「ルパン?」 「不二子〜!」 青丹を作ったルパンがアジトから出てきて呼びかけた。 「おい、目を覚ませよ!なんだ、あんな女・・・。」 「待ってくれぇ〜、僕の恋人〜!」 フラフラと不二子を追いかけようとするルパンが、突然ずっこけた。 次元はそこに立ててあった硬質ガラスを見つけて呟いた。 「やれやれ、やっかいな代物だな。」 芝の上で次元がルパンの隣に横たわった。 ルパンは何も言わずに無表情で空を見つめて指を上げる。 その指に炎ではなく、トンボがとまった。